岡井盛夫：少年と歌

風は海から吹いてくる

まことに古い話です。私の耳の奥に、次のような歌詞とメロディーが居残っています。 　　風は海から吹いてくる 　　沖のジャンクの帆を吹く風よ 　　情けあるなら 　　教えておくれ 　　私の姉さん 　　何処で待つ ※作詞　西條八十、作曲　服良良一 　調べてみると、歌手・渡辺きま子の「風は海から」（１９４３年）の一番でした。同年、映画「阿片戦争」（東宝）が公開されていますが、「風は海から」はこの映画の主題歌でした。 　阿片（アヘン）戦争は、清国へのアヘン密輸販売で巨利を得ていたイギリスと、アヘンを禁止していた清国の間で18３９年から１８４２年まで戦われました。 　映画（※）は、英国人によって清国が蹂躙された阿片戦争をバックに、盲目の少女（麗蘭・高峰秀子）とその姉（愛蘭・原節子）が混乱に翻弄される姿が描かれています。 ※監督・マキノ雅弘、脚本・小国英雄、黒澤明。 　 　 １９４３年、私は８歳でした。この映画を見ている筈はありません。その後、「風は海から」は流行歌として歌われたと思います。いつやら分かりませんが、少年の私の口で、歌ったのかも知れません。そして、その歌が耳の中に、つまり大脳のどこかに、残っているのかも知れません。 　まさか、映画「阿片戦争」に原節子と高峰秀子が出演し、脚本の一部が黒澤明によって書かれてあったとは、８３歳の今日まで知らなかったことです。