岡井盛夫:2017年9月8日 |
|||
洞爺丸と映画「飢餓海峡」 |
|||
前置き (1)1954年(昭和29)9月26日、日本国有鉄道(国鉄)の青函連絡船洞爺丸が台風第15号によって沈没した。死者・行方不明者あわせて1155人に及ぶ、日本海難史上最大の惨事となった。 (2)『飢餓海峡』は、水上勉の推理小説。1962年11月から1962年12月に連載されたが未完結であった。その後加筆されたものが、1963年に朝日新聞社にて刊行された。文庫版や単行本も刊行されている。 (3)1964年(昭和39)、内田吐夢(東映東京)は洞爺丸事故からヒントを得て、映画「飢餓海峡」を発表した(※)。 ※日本映画ベスト6(文藝春秋編)
あらすじ(Wikipedia解説を要約) 戦後間もない昭和22年に、猛烈な台風が北海道地方を襲った。青函連絡船・層雲丸(事実・洞爺丸)が転覆して多数の死傷者が出た。現場で遺体収容に従事した函館警察は、身元不明の遺体を2体発見した。それらの遺体は、連絡船の乗船名簿と該当しなかった。 同日、北海道岩幌町の質店に強盗が押し入って大金を強奪したうえ、一家を惨殺し証拠隠滅するため火を放った。火は市街に延焼し、結果的に街の大半を焼き尽くす大火(事実・岩内大火)となった。 函館署の弓坂刑事(伴惇三郎)は、身元不明の2遺体が質店襲撃犯3人のうちの2人であり、強奪した金をめぐる仲間割れで殺されたと推測する。 同じ頃、青森県大湊(現:むつ市)の娼婦・杉戸八重(左幸子)は、一夜を共にした犬飼多来吉(三国連太郎)と名乗る見知らぬ客から、思いがけない大金を渡される。悲惨な境涯から抜け出したいと願っていながらも現実に押しつぶされかけていた八重に、その大金は希望を与えてくれるものだった。 その後、犬飼を追跡する弓坂刑事が大湊に現れて八重を尋問するが、八重は犬飼をかばって何も話さなかった。八重は借金を清算して足を洗い東京に出るが、犬飼の恩を忘れることはなく、金を包んであった新聞と犬飼が残した足の爪を肌身はなさず持っていた。 10年後、八重はふと目にした新聞の紙面に驚愕する。舞鶴で食品会社を経営する事業家・樽見京一郎(三国連太郎)なる人物が、刑余者の更生事業資金に30000万円を寄贈したという。記事に添えられた樽見の写真には、行方が知れないままになっていた恩人・犬飼の面影があった。 八重は舞鶴に赴くが、樽見と会った翌朝、彼女は海岸に浮かぶ死体となって発見された。当初は自殺と思われたが、東舞鶴署の捜査官・味村刑事(高倉健)は八重の懐中から樽見に関する新聞の切り抜きを発見し、彼女の死は偽装殺人であると看破する。
味村の執拗な捜査によって、10年前の台風の夜に津軽海峡の海上で起きた殺人事件の姿が徐々に浮かびあがった。 (この映画では、加藤嘉、三井弘次、沢村貞子、藤田進らも好演した。) 補足 犬飼は大男で、凶暴な男であった。舞鶴で事業家・樽見京一郎と名乗って偽善者になりすましていた。しかし、3000万という寄付金が、図らずも彼の正体にスポットを当てることになった。 杉戸八重(左幸子)は、恩人に会って礼を言うためだけであった。しかしそのことが、樽見京一郎の仮面をはがし、犬飼の正体を暴くことになるとは、一切思いもつなかないほどの一途な女心であった。そして、その単純さ故に犬飼に殺されるはめになった。 弓坂刑事(伴惇三郎)は、切れ者ではなかつた、捜査のイロハを地道に追跡するだけであった。但し、その地道さが犬飼=樽見京一郎を暴く決め手になった。 映画が高く評価されたのは、昭和の社会性、推理小説の迫真の中身、男優女優の好演、音楽・効果など、総合的な作品であったからかも知れない。 |