岡井盛夫

イエス・キリストとコルベ神父


 小松英星さんのホームページによると、イエス・キリストは「個人の単独のアセンション」を果たしたと書かれてある。アセンション(次元上昇)とは難しい。そこでO君は、イエス・キリストのアセンションの意味について、いわば文学的にアプローチした。ただし、彼はクリスチャンではない。
 この二十世紀において、イエス・キリストはかくあったであろうと思うほどの、生き方死に方を実践した人がいた。その人の名は「アウシュビッツのコルベル神父」として知られている。神父の言動は、神父の身代わりによってあのアウシュビッツを生き抜いた一人のユダヤ人が証言している。その神父の言動をたどれば、約二千年前のイエス・キリスト像というものが、かなり明瞭になってくる。キリストの単独アセンションの、ヒントになるかも知れない。
 コルベル神父はユダヤ人強制収容所にいた。神父は、ある脱走失敗者の身代わりを申し立て進んで餓死室に入った。そこは脱走防止の見せしめの部屋であったから、ユダヤ人たちには、食料は勿論水さえも絶たれた。彼らは断末魔になって死んでいった。ところが奇跡が起きた。コルベル神父の入室した餓死室から聖書朗読と賛美歌が流れたのだ。ユダヤ人たちは、人間として息を引き取った。コルベル神父だけは、その眼光だけを残して生存しつづけた。ナチスは狼狽した。薬品を使って神父を殺害した。
 この実話は、二つの点で『キリスト誕生』と『イエスの生涯』(遠藤周作著)に共通している。括弧内は著書からの引用文。
 一つは奇跡のこと。コルベル神父は、神の奇跡を信じて身代わりを買って出たのではない。餓死室という極限の部屋に身代わりまでして入って、「彼らとともに悲しみや苦しみを分かちあ」ったのであった。「弱きを助け」たイエス・キリストと同じく、まるで神やキリストと一体となって、同室のユダヤ人に聖書を語り賛美歌を教えたのであった。コルベル神父とその他同室者の生き方と死に方は、事実として神とともにあった。
 二つ目は信仰のあり方。(中略)イエスの行為は、献身そのもの「全身的な誠実、純粋、真実、自己否定」であった。

 G君との対話

 コルベル神父を投影すると、イエス・キリスト像が浮かびあがる。イエス・キリストのあるいはコルベル神父の生きかた死に方は、地球人としての肉体や精神を疑いなくアセンド(上昇)している。コルベル神父は辛うじて肉体を持ちながら、つまり彼の魂(生命)はそのまま、無限の魂(大きい生命)に通じていた。あるいはアセンドしていた。
 イエスと呼ばれる人間の霊は、地上のものではない。すべての魂はべつの領域からきて身体に宿る。すべての魂が目覚めるのではないが、イエスは目覚めた。
 英星さんのホームページには、「大量アセンション」のノウハウのことが書かれている。イエス・キリストのように「単独アセンション」ができない大衆のためである。
大衆がアセンションを果たすためのキイポイントの一つとして、執着を捨てることの大事さが列記されている。その一つひとつを読みながら、それが、先のキリストとコルベルの生き方に符合することを知り、大変驚いた。
(1999年6月)