| 岡井盛夫・2013/07/21 |
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エジプト軍とスリム同砲団の、敵対関係 |
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| ７月３日のエジプト軍のクーデターについて、見落とされていたことがあります。新聞の切り抜き・ホームページ・著書などを参考にして、要点をまとめました。 なぜ、「事実上のクーデター」と報道がされたのか？ クーデターとは、「軍隊などの非合法手段による政権奪取」(国語辞典)です。そのクーデターが、「事実上のクーデター」と報道がされました。クーデターはクーデターですから、意外な表現です。その理由は、「クーデター」と明言できない後ろめたい国(米国)があったからです。言葉を変えれは、次のような米国のジレンマです。 （１）いわゆる「アラブの春」によって、エジプトのムバラク政権(約３０年の独裁政権)が倒れた。初めて選挙が実施されて、ムルシ政権が発足した。米国は、その結果(民主主義)を認めた。 （２）エジプトは米国から毎年、約２０億ドルの経済援助を受けている。その大半は軍に流れている。用途は軍事費だけではなく、大企業に投資されている。軍が金融機関を持ち、経済活動に深く関わっている。 （※）米国の対エジプト経済援助は、ナギブ大統領以来続いている。 （３）米国の中東軍事政策にとって、エジプト軍はいわば分身である。切り離すことはできない(後述)。 エジプト軍の６０年史 次は、朝日新聞(２０１３/７/５)の要約です。 （１）１９５２年、エジプト軍はナセル中佐率いるクーデターによって、王制を覆した(※)。以来、軍は国家機構の中心に座り続けている。初代ナギブ大統領以来、ナセル、サダト、ムバラクは、歴代軍人出身大統領。 ※１９５３年、国王を廃位し共和政へと移行、エジプト共和国が成立した。 （２）ムルシ政権は、「アラブの春」(※)による初の民選文民大統領である。彼は、新憲法の制定によって軍の干渉を弱めようとした。 ※「アラブの春」以前から、軍とムルシ大統領の所属するイスラム組織ムスリム同胞団とは、長く敵対関係にあった。ムバラク政権は、同胞団を非合法化し激しく弾圧していた。 （３）エジプトは、イスラエルとの四度の中東戦争で、兵役など、軍務経験を持つ市民が多い。彼らは、軍関連産業の裾野に１０００万人が就職していている。軍のエジプト社会での存在感は無視できない。 なぜ、米軍がエジプト軍と深い関わりを持つのか？ キイ・ワードは、イスラエルです。米国とイスラエルが、切っても切れない同盟関係にあることは説明を要しません。そのイスラエルは、中東では反イスラエル包囲網の中にあります。但しエジプトは、サダトによってイスラエルとの間で和平を結びました。以来、他の中東諸国とはスタンスが違います。その代償として、米国はエジプトに対して、経済的な支援を続けています。 エジプトには、主だった産業がありません。食糧の自給率が低く、エネルギーも輸入に頼っています。観光業で稼いだ外貨を使って、主食の小麦や石油製品を買っています。イスラエルとの国交は、エジプトの観光産業にとって、なくてはならない関係にあります。 なお、エジプトと米国との友好関係、エジプトとイスラエルの関係は、スエズ運河の安全運行に重大にリンクしています。そして、エジプトの軍事と経済の癒着も深いものがあります。多くのエジプト人は、アラブの一員たるエジプトがイスラエルに対して友好的な関係を持つことを、厳しく非難しております。 エジプト軍のクーデターの、二つの側面 エジプト軍のクーデターには、二つの側面があります。一つは経済的側面です。国民のデモの多発の要因は、この経済的側面です。 軍は国民のデモに同調しました。結果的に、国民の支持を受ける形になりました。経済的側面は、エジプト経済の構造的な行き詰まりです。特別に、モルシ政権の失政だけではありません。 （１）ムバラク政権が倒された２０１１年(アラブの春)から、政情不安定のために観光客の安全が脅かされ、激減している。警察機能も弱体化している。 （２）観光客激減による外貨不足で、食糧輸入が減り、国内物価の上昇、ガソリン不足、停電が重なり、インフレ率は１２％（昨年７％）であった。失業率は２桁になっていた。 （３）インフレに対し、賃上げデモなどが頻発した。 （４）旧政権擁護派(※)が台頭し、世情不安を煽った。市民のデモに便乗する形で、軍のクーデターが起きた。 ※軍との間に、強い利害関係を持ち続けている。 軍のクーデターの真の目的は、新政権排除でありました。軍はムルシ大統領の誕生によって、次のような実害を受けておりました。 （１）国軍最高会議の議長と副議長が更迭された。 （２）ムルシ政権の人事によって、政府と軍の二重構造が解消されつつあった。 （３）軍が主導した憲法改正が無効とされた。 以上、軍は失地回復に迫られていました。エジプト軍のクーデターは、経済的側面と軍事的側面によって断行されました。 ムスリム同胞団とは？ 次は、『アラブの春の正体』(重信メイ著)の要約です(※)。 （１）ムスリム同胞団は、２００万人のメンバーと数百万人の支持者(貧困救済)を擁している。 （２）大統領に選ばれたムハマド・ムルシは、自由公正党首でムスリム同胞団に所属している。ムスリム同胞団は、イスラム政党の支持を受けている。 （３）ムルシは工学博士である。イスラム原理主義者であっても、保守的な人物である。彼とムスリム同胞団は、トルコ(世俗主義)のイスラム系与党(公正発展党)を見習っている。 （４）ムスリム同胞団を含むイスラム原理主義者たちの目的は、政治権力を奪取して、自分たちの考える社会をつくることである(※)。しかし、ことイスラエルとの関係では、「友好的な関係を維持する」、と発言している。彼らは、米国やイスラエルと敵対し世界から孤立することを怖れている。その点では、エジプト軍との間で決定的な違いはない。 ※ムスリム同胞団は組織ではない。一種のムーブメント(運動体)である。彼らは、スンニ派的イスラム社会の実現を図っている。 ※ 著書『アラブの春の正体』(重信メイ著)を購入して、後から気がついたことです。重信メイの母親は重信房子です(父親はパレスチナ人)。但し、重信メイが母親の政治的信条について、どのように考えているかは、一冊の読書ではほとんどわかりません。但し、『アラブの春の正体』を読むかぎり、少なくも、重信メイはテロリストではありません。著書は平易な文章で書かれていますが、「アラブの春」を正しく評価するには、欠くことのできないルポルタージュです。(岡井) ポスト・クーデター エジプトのポスト・クーデターが、今後どのように展開していくのか、まったくわかりません。この度の軍のクーデターに正当性はありませんから、ムスリム同胞団が新しい組閣に協力することは絶望的です。さらに、エジプト経済が好転する可能性もみあたりません。すべてが悲観的現状です。 そこでキイポイントのなるのは、ムルシ政権打倒を叫んだ民衆の動向です。彼らが、軍事独裁政権を待望したはずはありません。彼らは、クーデターを介しない政権交代を求めていました。彼らが、軍事クーデターをいかに評価するか、軍とムスリム同胞団の対立にどのようなスタンスをとるかが注目されます。 ７月下旬の段階で、軍とムスリム同胞団との間で、激しい敵対的対立が続いています。
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